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トラブル改善につながる技術情報を紹介します。

ロール品質を数値化する理論モデルの歴史

巻取ロールの内部応力の数値化がトラブルの原因推定と改善に役立つ。内部応力を数値化する理論モデルの歴史と概要と学び方を紹介する。

内部応力を数値化する理論モデル(以下、巻取モデル)は、キーワードと特徴で第1世代から第4世代に分類される。

巻取モデルの歴史

内部応力の予測精度は第1世代ではそれほど高くなく、条件変更によるロール品質の違いを検討するとすればその相対比較にとどまった。しかし世代を重ねるにつれて予測精度が向上し、第4世代では実用的なレベルに達した。その結果として巻取モデルの基礎研究は第4世代でおおむね完了した。現在は、解析技術をもつ企業を中心とした個別の応用研究にシフトしてきている。

以下に、各世代の巻取モデルとその特徴をそれぞれ紹介する。

 

古典的なモデル。計算が容易で定性的に理解しやすいという意味で利用価値がある。

Guttermanモデル

ウェブの巻取方向(円周方向)と厚み方向(半径方向)のヤング率がどちらも定数でかつ同じ値と仮定したモデルであり、公式で表現されている。この公式を解けば内部応力が求められる。

Guttermann1)に代表される第1世代は計算が簡単であるが、予測精度は高いとはいえない。しかし、この特徴を理解して相対比較のために使うのであれば十分に有効なモデルである。

 

ヤング率の異方性を考慮できるように改良された古典的なモデル。第1世代と比べて予測精度が向上。

Altmannモデル

円周方向と半径方向のヤング率はともに定数のままであるがそれぞれの値が異なる異方性を仮定したモデル。第1世代と同様に公式を解いて内部応力を求める。

Altmann2)に代表される第2世代は計算が簡単であるという利点を維持したまま、予測精度がやや向上した。第1世代と同様に相対比較の活用に有効なモデルである。

第1世代と第2世代のモデルはヤング率を一定と仮定したことで計算がかんたんという利点がある。半径方向ヤング率が非線形性を示す場合には予測精度が低下するという課題があった。この非線形性は以下で解説する。

 

あるプラスチックフィルムの試験データ3)を紹介する。

ウェブのヤング率の異方性・非線形性

巻取モデルで計算するときはウェブのヤング率を数値化あるいは数式化しておく必要がある。なお、円周方向ヤング率は引張試験、半径方向ヤング率は圧縮試験の測定データから決定する。

図左は引張試験の測定データであり、ひずみが増大すると線形領域から非線形領域に変化することがわかる。その一方で実際の巻取ロールの円周方向応力は線形領域(図中の赤枠内)であることが多い。したがって円周方向ヤング率は一定とみなる。

図右は圧縮試験の測定データであり、試験範囲内では応力とひずみの関係が非線形となっている。その一方で実際の巻取ロール内の半径方向応力は数kPa~数MPaの範囲であることが多い。したがって半径方向ヤング率は非線形性を示すことがわかる。

 

半径方向ヤング率の非線形性を考慮した、実用されている巻取モデルの基礎となっているモデル。

Hakielモデル

Hakiel氏が提示した巻取モデル4)であり、ヤング率の異方性と非線形性を考慮している。予測精度が向上した一方、計算自体がやや複雑化した。

第3世代のモデルをベースとして様々な現象を考慮できる第4世代のモデルが登場してくる。

 

内部応力への影響が大きい様々な現象が考慮されたモデル。

巻取モデルの構成

以下に、第4世代の巻取モデルに考慮された現象の概要、およびその理論研究の代表例を紹介する。

巻き込み空気

ウェブが巻き取られるときに周辺の空気が巻き込まれる。その結果としてウェブ間に空気層が形成され、巻取ロールが軟らかくなる。

Good ら5)とTaylorら6)は巻き込まれた空気はどこにも流出しないと仮定した、ニップローラがない場合とある場合の巻取モデルをそれぞれ提案した。その後、谷本ら7)がウェブの厚さ方向の通気、神田ら8)がロール端面からの流出を考慮した巻取モデルをそれぞれ報告している。

ニップロールのある巻取方式

ニップロールは巻き込まれる空気の量を制限すると同時に、巻取ロールとの摩擦によって張力を増大させる。
Goodら9)は、この“誘起張力”と呼ばれる現象を実験的に調査し、その結果にもとづいた巻取モデルを提案した。

周辺環境変動

巻取ロール周辺の温度や湿度が巻き取ったときから変動するとウェブやコアが膨張あるいは収縮する。

Willet ら10)はロール温度の変動量が一定であると仮定した巻取モデルを提案した。その後、Lei ら11)は非定常な変動、神田ら12)は空気層の断熱効果を考慮したモデルをそれぞれ報告している。なお、湿度に関する巻取モデルは温度と同様に取り扱える。

粘弾性特性

ウェブがプラスチックフィルムの場合、高分子材料であることに起因した粘弾性特性によって内部応力が時々刻々と変化する。

Qualls ら13)はフィルムを線形粘弾性体と仮定した巻取モデルを提案した。さらに神田ら14)は粘弾性特性の温度と応力の依存性を考慮したモデルを報告している。

幅方向の厚みムラ

ウェブ製品には多少なりとも幅方向に厚みムラがあり、巻取方向であまり変化しない場合が多い15)。何層も巻かれていくと幅方向のロール径に差が生じ、実張力が幅方向で不均一になる。

Hakiel16)は巻取ロールを幅方向で狭幅ロールに分割して厚みムラを表現した巻取モデルを提案した。

活用するときのポイント

実際は各現象が複合して巻取ロールの内部応力に作用する。このような複雑現象は第4世代のモデルを組み合わせれば表現できる。これには解析対象とするウェブ物性、巻取方式や生産条件を勘案し、実際を表現できるモデルを選ぶことが重要である。

 

理論を学習し始めるときにお勧めする順番を紹介する。

①橋本先生著書「入門ウェブハンドリング」とウェブハンドリング技術研究会編著「実践ウェブハンドリング」をさっと読んで、理論と実践の全体像をつかむ。この段階では、なんとなくイメージできれば良い。

②巻取理論を学ぶ上で欠かせないHakielモデルについて、自分で理論式を導出して計算する。これによって基礎中の基礎の本質が見えてくる。

③生産現場で知覚している現象を対象に、第4世代のモデルを上記と同じように取り組みます。実際の現象を理論的に捉えられる感覚が徐々に芽生えてくる。

巻取理論を学習するときは原著論文を取り寄せていただきたい。その本質やモデル化に対する研究者の考えがそこにある。

 

参考文献

  1. Gutterman, R.P., “Theoretical and Practical Studies of Magnetic Tape Winding Tensions and Environmental Roll Stability,” US Contact No. DA-18-119-sc-42, (1959).
  2. Altmann, H.C., “Formulas for Computing the Stresses in Center-Wound Rolls,” TAPPI Journal, Vol. 51, No. 4, (1968), pp. 176-179.
  3. 神田敏満, “熱粘弾性特性を考慮したプラスチックフィルムの巻取り理論に関する研究,” 博士論文, 東海大学大学院, (2012).
  4. Hakiel, Z., “Nonlinear Model for Wound Roll Stress,” TAPPI Journal, Vol. 70, No. 5, (1987), pp. 113-117.
  5. Good, J.K. and Holmberg, M.W., “The Effect of Air Entrainment in Center Wound Rolls,” Proceedings of the Second International Conference on Web Handling, (1993), pp. 246-264.
  6. Taylor, R.M and Good, J.K, “Entrained Air Films in Center wound Rolls – With and Without the Nip,” Proceedings of the Forth International Conference on Web Handling, (1997), pp. 189-203
  7. 谷本光史, 河野和清, 高橋定, 佐々木将志, 吉田総仁, “空気巻込みを考慮した巻取りロールの内部応力解析,” 日本機械学会論文集A編, Vol. 68, No. 667, (2002), pp. 161-168.
  8. 神田敏満, 朱峰承興, 橋本巨, “端部からの空気流出を考慮した巻取りロールの内部応力解析,” 日本機械学会論文集C編, Vol. 76, No. 772, (2010), pp. 3736-3743.
  9. Good, J.K., Wu, Z., and Fikes, M.W.R., “The Internal Stresses in Wound Rolls with the Presence of a Nip Roller,” ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 61, No. 1, (1994), pp. 182-185.
  10. Willett, M.S. and Poesch, W.L., “Determining the Stress Distributions in Wound Reels of Magnetic Tape Using a Nonlinear Finite-Difference Approach,” ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 55, (1988), pp. 365-371.
  11. Lei, H., Cole, K.A. and Weinstein, S.J., “Modeling Air Entrainment and Temperature Effects in Winding,” ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 70, (2003), pp. 902-914.
  12. 神田敏満, 橋本巨, “巻き込み空気が熱伝導に及ぼす影響を考慮した巻取りロールの非定常熱応力モデルに関する検討,” 日本機械学会論文集C 編, Vol. 77, No. 780, (2011), pp. 3161-3174.
  13. Qualls, W.R. and Good, J.K., “An Orthotropic Viscoelastic Winding Model Including a Nonlinear Radial Stiffness,” ASME Journal of Applied Mechanics, Vo. 64, No. 1, (1997), pp. 201-207.
  14. 三谷修造, “フィルム巻取技術の理論と実際(1),” プラスチックス, Vol. 57, No. 8, (2006), pp. 61-65.
  15. Hakiel, Z., “On the Effect of Width Direction Thickness Variations in Wound Rolls,” Proceedings of the First International Conference on Web Handling, (1991), pp. 79-98.

 

関連ページ

巻取りの基礎理論 – Hakielモデルでの数値計算とその概念

巻取トラブルに対する巻取ロールの内部状態の関係

 

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