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トラブル改善につながる技術情報を紹介します。

温度変化の巻取理論 – 概要(輸送・保管でのトラブル)

巻取ロール周辺の温度変化にともなう内部応力の変化を予測する巻取理論である。

“季節要因”のトラブル改善が代表例

室温で巻き取られたロールが、倉庫保管やトラックや船での輸送の間に周辺環境の温度変動にさらされてトラブルが発生し、次工程で繰り出した際に認識されるパターンである。特に海外輸送をともなう場合は地域要因ともいえる。

温度変化の巻取理論を適用すれば、事前に温度変化を想定した上で巻取条件の設定やコアの選定が可能になる。

 

温度変化にともなうウェブやコアの膨張・収縮

温度上昇による巻取ロールの膨張

理論的な観点からはウェブやコアの温度が変化することでそれぞれが膨張・収縮すること、これが本質的な要因である。

図は巻取ロールにおける濃色ウェブとコアに着目した温度上昇前後のイメージである。温度が上昇するとウェブとコアが膨張する。その結果として巻取ロールの内側から外側に押し出そうとする力が生じて内部応力が変化する。

注意:正確にはウェブの半径方向と円周方向の線膨張係数の関係、さらにコアの線膨張係数の関係が内部応力に対して複合的に作用する。

 

Hakielモデルの基礎方程式にウェブの熱ひずみを追加

熱弾性モデルの方程式

図中の4つの式が熱弾性モデルのベースとなっている。「応力の釣合方程式」と「ひずみの適合条件式」はHakielモデルと同じであるが、「応力とひずみの関係式」にウェブの熱ひずみが追加される。ここで、熱ひずみは線膨張係数αに巻き取った後のロール温度の変化量ΔTを乗じたもので表される。なお、αの添え字rθは半径方向と円周方向をそれぞれ示している。

各式をもとに導出した基礎方程式に対し、コアの熱ひずみを導入した最内層境界条件式、および巻取が完了したとする最外層境界条件式を適用して解くと温度変化によって変動する内部応力を計算できる。

 

あるPETフィルムの巻取ロールを温度上昇させたときの内部応力

温度上昇時の計算事例(あるPETフィルム)

あるPETフィルムを室温22℃で巻いたロールに対し、夏場想定の温度37℃に上昇させた場合の内部応力の計算結果を示している。温度上昇にともない半径方向応力は全体的に高くなり、円周方向応力は形状が変化すると予測される。トラブルに対する評価として、半径方向応力の結果から内層側でブロッキングなどのトラブル、円周方向応力の結果から外層側で弛みやゲージバンドなどのトラブルの発生リスクが高まると判断できる。

このような理論計算を巻取条件やコアを変更して行うことで、温度変化によるトラブルが発生しにくい条件を探索できるであろう。

 

参考文献

  1. Qualls, W.R. and Good, J.K., “Thermal Analysis of a Round Roll,” ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 64, (1997), pp. 871-876.
  2. Lei, H., Cole, K.A. and Weinstein, S.J., “Modeling Air Entrainment and Temperature Effects in Winding,” ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 70, (2003), pp. 902-914.
  3. 神田敏満, 橋本巨, “巻き込み空気が熱伝導に及ぼす影響を考慮した巻取りロールの非定常熱応力モデルに関する検討,” 日本機械学会論文集C 編, Vol. 77, No. 780, (2011), pp. 3161-3174.

 

関連ページ

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