コアは巻取ロールを構成する重要な副資材である。コアの選定が不適切であると、ブロッキングや巻締り、円周方向シワ(以下、シワ)といった巻取トラブルが発生する。ここではシワを対象に、適切なコアを選定するためのコア物性と円周方向応力の関係を解説する。なお、コアは巻き芯とも呼ばれている。
コア近傍での円周方向シワ
発生要因の1つが内層側へのウェブの移動であり、コアの剛性が関係
コア近傍でのシワは、張力に起因して巻取ロールが円周方向に締まる(いわゆる巻締り)、あるいは写真のように過大な半径方向応力によってウェブが内層側に移動することで、いずれも円周方向の圧縮応力がウェブに作用して発生するケースが考えられる。
このようなシワの改善策は巻取張力の調整が一般的であろう。その一方で、後者の場合はコアの見直しも対策の1つに挙げられる。具体的にはコアの堅牢化であり、コアを硬くしてウェブの内層側への移動を抑えることがポイントである。
コアのヤング率の定義
コアの硬さの数値化と計算例
Hakielモデルをベースとした巻取理論では、内部応力の数値計算にはコアのヤング率をインプットする必要がある。このヤング率とは材料のヤング率ではなく、構造としてヤング率である。
構造ヤング率Ecは次式で計算できる。ここで、Ecmは材料ヤング率、rcは外半径、hcは肉厚、νcはポアソン比である。
材料ヤング率EcmをABS樹脂相当の2.5GPa、肉厚hcを7mmと12mmとすれば、構造ヤング率Ecはそれぞれ440MPaと830MPaと算出される。
肉厚によるシワ発生リスクの違い
コアの肉厚によってシワと相関する円周方向力は異なる
2つのグラフは、あるPPフィルムを上述した肉厚の異なるコアに巻き取った後、異なる環境温度下(四季を想定)で保管したときの円周方向応力の数値計算結果をそれぞれ示している。なお、巻取りの環境温度を20℃とし、春と秋は変化しない20℃、夏は温度上昇する35℃(+15℃)、冬は温度低下する5℃(-15℃)で保管する設定である。いわゆる季節要因の巻取トラブルを想定している。
図左の肉厚7mmの場合、四季を通じて内層側の巻き長位置でマイナスの圧縮になっている。特にマイナスが大きい夏はシワが発生しやすいといえる。一方、図右の肉厚12mmの場合、四季の違いに対する変化の傾向は同様であるが、7mmの場合と比較して内層側の円周方向応力は全体的にプラス側へシフトしている。つまり、シワの発生リスクをコアの肉厚でコントロールできることを意味している。
線膨張係数によるシワ発生リスクの違い
巻取ロールの温度が変化すると、ウェブのみならずコアの寸法も変化して円周方向応力に影響する。
環境温度が変化すると、ウェブはその熱ひずみによる寸法変化によって内部応力に影響を及ぼす。コアにおいても同様であり、環境温度の巻取理論ではコアの線膨張係数も考慮する。2つのグラフは肉厚12mmとし、線膨張係数が8×10-5K-1と12×10-5K-1で異なるコアを用いた円周方向応力の数値計算結果をそれぞれ示している。ここで、上述した「肉厚によるシワ発生リスクの違い」における肉厚12mmの結果と、ここでの線膨張係数を8×10-5K-1とした結果は全く同じものである。
それぞれの結果を比較すると、12×10-5K-1の方が四季を通じて内層側の円周方向応力の変動が少なく、安定している。つまり、シワの発生リスクをコアの線膨張係数でもコントロールできることを意味している。
コア選定における注意事項と技術的価値
コアの肉厚と線膨張係数でシワの発生リスクをコントロールできることを数値計算結果で示した。シワのみならず、内部応力と相関する巻取トラブルであれば同様の検討が可能である。
なお本解説では、あるPPフィルムの物性値を用い、所定の巻取条件での計算事例をもとにしている。このケースでは肉厚、かつ高線膨張係数のコアが適切であった。しかしながら、ウェブの熱ひずみなどの諸物性や巻取条件によって最適なコアの物性は異なる。この点には注意しなければならない。
理論的にウェブ製品に適したコアを選定できると、トラブル改善や安定生産への検討がしやすくなる。これには温度変動の巻取理論1,2)にもとづく数値計算とコア物性の評価をできるスキルが必要になる。このような技術の獲得には多少の努力をともなうが、得られる成果して決して少なくない。技術者の方にはチャレンジしていただきたい。
参考文献
- Qualls, W.R. and Good, J.K., “Thermal Analysis of a Round Roll,” ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 64, (1997), pp. 871-876.
- 神田敏満, 橋本巨, “巻き込み空気が熱伝導に及ぼす影響を考慮した巻取りロールの非定常熱応力モデルに関する検討,” 日本機械学会論文集C 編, Vol. 77, No. 780, (2011), pp. 3161-3174.
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